海へ。

8月に入って梅雨も明け、暑い日が続いていた。
そのころ彼女たちは(形だけだが)バンドを組んでいて、初練習の日程をどうしようかという話をしていたらしい。

元々初練習に充てられていた土曜日、みんなで海に行こうという話になった。
海にギターを持っていって、浜辺で練習しようというプランらしい。
バンドに関係ない僕が誘われたのは、彼女と仲が良かったからだろう。
僕はちょっとした用事があったので、午後から車で行くことにした。
すると、彼女も「一緒に乗せてってください」と。
他のメンバー二人は朝イチで電車で行くらしいので、彼女も用があって間に合わないからというのが理由だった。

二人だけで車に乗って海へ。

この時点ではまだ、僕の中で彼女はかわいい友達でしかなかった。
その先を求めてはいなかった。

道中、完全に二人きりでいろいろ話した。
ほとんどは取り留めのない話。
その中で、時折(僕にとっては)重要な話が出てくる。

つまり、旦那の話。過去の話。今の話。
それを聞きながら笑ったり落ち込んだり。

曇ってた空は、海に近付くほど晴れ模様に。
流れてくる彼女お気に入りのアルバムも、耳に馴染んだ曲ばかりで心地いい。
海に着いたらみんなが待ってるけど、今だけは二人きりで。

こんな体験もきっと、僕の中で彼女の存在を大きくする要素のひとつになっていたんだと思う。

当たり前だけど、海は何事もなく終わった。
ただ、この小さなイベントのあと、僕と彼女の距離はさらに縮まることになる。