僕と彼女を隔てる距離は。

これまで僕から声をかけることが多かったんだけど、8月の後半くらいになると、彼女からの誘いも少しずつ増えてきていた。
バンドの方もほぼ週イチで練習していたので、そのたびに様子を見に行っていた。

9月になって1週間くらい過ぎた頃、飲んだ帰りは必ず彼女をマンションの前まで送り届けるようになった。
結婚してることもあまり話さないでくれ、なんていう秘密の多い彼女だから、マンションの場所を知っただけでもちょっと嬉しかった。
マンションまでの道のり、彼女の話を聞きながら歩くのは楽しかった。

この頃にはすでに、僕は彼女のことが好きなんだなってことを実感していて、なんとかもっと近づけないかと画策していた。

以前、彼女が女友達と話しているのを聞いて、この子は頭を撫でられるのが好きなんじゃないかなと思ったことがあった。
ちなみに僕は、女の子の頭を撫でるのが好きだ。

ある日、マンションの前で別れ際に思い切って手を伸ばしてみた。
ナデナデ。
彼女は嬉しがるでも嫌がるでもなく、目を閉じていた。
撫でられるのが好きな猫みたいな感じ。
僕は心の中でガッツポーズ。
僕の勘は正しかった!

それからは別れ際に必ずナデナデするようにした。
飲みすぎて赤い顔をしてたときは、ほっぺに触ってみた。
ちょっとずつ彼女に触れることが多くなってきていた。
その瞬間だけは、彼女と僕の距離がゼロになった。


このステップは重要な一歩だったと思う。
彼女と僕の間にあった空気が、一瞬だけでもなくなることが嬉しかった。
物理的な距離は心の距離にも影響する、という話を何かで読んだっけ。
彼女の夫は、物理的に遠いところで暮らしている。
このことがどう影響するのか、この頃の僕にはわからなかった。
もちろん、今の僕にもよくわかっていないんだけど。


そしてこの後、秋の大型連休『シルバーウィーク』が、僕たちに劇的な変化をもたらすことになる。