眠り姫の意識。

10月に入ってからというもの、意識のある彼女とキスをしたのは数えるほどしかない。
キスしたり必要以上のスキンシップを図ると怒られるからだ。
調子に乗って脱がしてしまって以来、彼女も(ダメと言った手前)怒らざるを得ないところがあるのだろう。

意識のある彼女とはキスしていないけど、意識のない彼女とは頻繁にしている。

裏返せば、僕の前で意識をなくすことが極端に多くなったということ。
元々スイッチが切れたように眠るタイプらしく、今までは緊張感やら警戒心やらが自制していたんだろう。
エッチこそしていないものの、近いところまで行った仲ということもあって安心しているのかもしれない。
僕にとっては嬉しいことでもあり、ちゃんとしたコミュニケーションが取れないという意味では悲しいことでもあった。

初めて意識をなくした彼女を運んだのは、10月の連休。
いつものように飲んだ帰り、マンションの前で頬を撫でていると、目を閉じてうっとりしていた彼女が僕の胸に顔を埋めてきた。
最初は「珍しく甘えてきたのかな」と思ったけど、5分経っても10分経ってもそのまま。
あれ、と思ったときにはすっかり熟睡していた。

この頃、僕はまだ彼女のマンションのカギの開け方を良く知らなかった。
しかも、その前日には旦那が部屋にいたのを知っている。
連休最終日の未明ということで、まだ部屋にいる可能性は充分過ぎるほどあった。
彼女を抱えて部屋まで上がれたとして、そこで旦那と鉢合わせなんてことになったら洒落にならない。
一瞬の間に僕の想像力はフル回転して、最終的に自分の部屋まで持ち帰るという決断を下した。

幸い彼女のマンションの前は頻繁にタクシーが通る。
1分も経たずにタクシーを捕まえ、怪訝な顔の運転手にワンメーター先の自宅の場所を伝え、彼女を運び込んだ。
彼女を部屋まで抱え上げ、一緒になって布団にもぐりこむ。
彼女の温かい体が僕の心まで温めてくれるような気がした。

それからというもの、マンションの前で頬を撫で始めると、彼女は途端に意識を失うようになった。それも、僅か1分足らずで。
寝ている彼女の唇を奪うと、彼女も舌を絡ませ、求めてくる。
意識のある中で求めることができないために、仕方なく寝ているフリをしているのかな・・・と思ったりもするけど、本当のところはよくわからないし、どちらでもいいことではある。

僕は毎回毎回彼女を部屋まで抱え上げて、彼女の寝顔をひとしきり眺めてから帰路に就くという日々を繰り返している。

嬉しいやら悲しいやら。