秋の空の雲の上の。

前回も書いたが、彼女から飲みの誘いなどはほとんど無くなった。

なんとも難しいところだけど…それでも一度は肌を許した、という事実だけは残っているので、彼女に近づいてくる他の男よりは遥かに近い位置にいる。

例えば、飲んだ帰りに彼女をマンションの前まで送り届けられるのは僕だけだったし、頭を撫でるのも柔らかい頬に触れるのも、誰にも内緒の僕だけの特権だった。
…もちろん、旦那以外では。

それだけのことをしている割に、信頼関係は以前ほど強くないという印象があった。
それでも好きだったから、ことあるごとに二人になろうとした。
辛抱強く好きな気持ちを態度で示した。
彼女はモテるから、飲んだ帰りに送って行こうとする男は多い。
それをかいくぐり、チャンスをものにできる機会は少なかった。
その数少ない時間を大切にして、ゆっくり距離を縮めていった。
出会ったころのように、ゆっくりゆっくり近づいていった。

昨日、僕の部屋でボードゲームで遊んだ。
みんなが集まったところで、彼女の誕生日を祝った。
有名なケーキ屋で誕生日ケーキを買い、プレゼントにちょっと高いお酒を贈った。
ゲームが終わり、みんなで居酒屋に行き、酔った彼女を気遣って二人だけで先に抜け出した。

マンション前まで行き、頭を撫でると、顔を胸に預けてきた。
頬にキスをして、耳元で大好きだよと囁いた。
彼女はもじもじと顔を押し付けたあと、僕の顔を見上げて満面の笑みを浮かべた。

まるで去年までと同じように。


夏が過ぎ、真夏の暑さが消え、ようやく綺麗な秋の空が広がった。
あのふわふわしたまっ白い雲の上に何があるのか、僕にはわからない。

冬までもう少し。

このままでいいのかという焦りと、気持は変えられないという諦めと。

悩みは尽きない。